平成24年度大阪優秀発明表彰
受 賞 決 定
昭和51年より大阪府において、優れた発明を完成し、わが国の科学技術の発展に大きな足跡を残した人々の偉大な功績を顕彰するため、毎年実施しておりました「大阪優秀発明大賞」は、今年度より「大阪優秀発明表彰」として再出発し、これまでの「大阪優秀発明大賞」部門に加え、中堅企業・中小企業を対象にした「大阪チャレンジ発明賞」部門を新設いたしました。
そして厳正なる審査の結果、大阪優秀発明大賞1件、大阪チャレンジ発明賞2件、大阪発明奨励賞3件を決定し、平成25年1月23日(水)大阪大学中之島センターにて表彰式が挙行されました。
平成24年度大阪優秀発明大賞 (敬称略)
「水冷中測温活用制御による熱延鋼板製造方法」 (特許第4894686号)
橘 久 好(新日鐵住金株式会社)
武 衛 康 彦(新日鐵住金株式会社)
本 田 達 朗(新日鐵住金株式会社)
植 松 千 尋(新日鐵住金株式会社)
中 川 繁 政(新日鐵住金株式会社)
<本発明の概要>
(背景と課題)
近年、省エネルギー及びCO2削減が社会的に強く求められ、自動車は燃費向上のために軽量化を進めている。自動車の素材として多く用いられる鋼板には薄肉化が求められ、強度の高い高張力鋼板の使用率が年々増加している。
高張力鋼板の製造には高度な製造技術が必要であるが、特に冷却工程における鋼板温度の管理が重要である。強度を高め必要な機械特性を得るには、鋼板をコイル状に巻き取る際の巻取温度を通常の鋼板と比べ低温域まで冷却し、更に狭い温度範囲に管理する必要がある。ところが、この低温域は水冷時の冷却状態が不安定で、温度予測に基づいた従来技術の制御法では、予測精度が悪いため制御精度がばらつき、管理範囲から外れる製品不良が頻発していた。このため、冷却装置内で測定した鋼板温度を活用し、巻取温度を高精度に制御する技術が必要であった。
(本発明の特徴)
本発明は、冷却水が多量に飛散している冷却装置内の複数地点で鋼板温度を測定し、この測定値に基づいて冷却装置の水量を多段階に修正することを特徴とする、巻取温度の制御技術であり、計測、制御技術にそれぞれ次のような特徴を持つ。@鋼板の熱放射を水を排除するのではなく、水を通して導くという方法を採用(図1)。水が飛散する環境での温度測定を可能にするため、水により減衰の少ない1.1μm以下の帯域の熱放射を検出する放射温度計を用いた。A冷却装置入口の鋼板温度に基づいて、冷却装置全体を操作する最上位の「制御コントローラ」のバルブ操作指令を、下位の複数の制御コントローラが冷却装置内の鋼板温度測定値に基づき、冷却装置下流側のバルブ操作指令を多段階に渡って修正する。上位と下位の制御コントローラは連携し、冷却装置全体のバルブ操作指令を適正化する(図2)。本発明により、巻取温度制御精度が大幅に改善し、高品質の高張力鋼板の生産性が向上した。また、自動車の軽量化を通じて、省エネルギー、CO2削減にも貢献している。
図1 水冷中温度測定手段
平成24年度大阪チャレンジ発明賞(敬称略)
・「シンクロタッピングホルダ」 (特許第5061118号)
駿 河 宏 和 (大昭和精機株式会社)
本発明は、工作機械の主軸にネジ立て用のタップを保持するタップホルダに関するものである。
タップホルダ本体とタップコレットとが重なり合う部分において、タップホルダ本体とタップコレットとを係止部材で挿通し、係止部材が、軸方向の両側に弾性体を介在させた状態でタップコレット及びタップホルダ本体の少なくとも一方と係合し、タップコレットをタッパー本体に固定することを特徴とする。
一般的に、ネジ穴加工は加工最終工程でされますが、タップが折れて加工部品から、抜けなくなった場合、時間のロス・部材のロスが発生したり、同期誤差により加工面が荒れたりします。多くの製造業で、ネジ穴加工は用いられており、失敗しない慎重な加工方法が、求められており、この発明の技術的効果は高い。
タッパー本体とタップコレット及び係止部材と弾性体の基本的な構成要素が少なく簡単な構造により製作できる、また弾性部材を交換することにより、タップサイズの違い、摩耗や経年変化による対応が容易であることが改良点。
従来は、タップホルダの軸方向の両側にスプリングのフロートを設けてこれを防止するようにしていたが、近年は機構や制御技術の発達により回転と軸送りの同期(シンクロナイズ)精度が向上したことによって、当製品はスプリングのフロートをなくし、一体的な構造にしていることが新規性。
図1.内部構造図
・「電気炊飯器」 (特許第4670447号)
辻 健 一 (TIGER VIETNAM CO.,LTD.)
矢 野 吉 彦 (タイガー魔法瓶株式会社)
(背景と課題)
本発明は、従来の金属製の鍋と異なり、内釜に土鍋を使用する誘導加熱式の電気炊飯器に関するものである。従来炊飯用の鍋は外層をステンレス、内層はアルミニウム製の多層構造の金属性のものが使用されている。金属性の鍋は熱し易く冷めやすい特徴があるため、炊飯時にお米が急速に昇温されるため炊き上げた時の美味しさが未だ不十分である。そこで、金属製の鍋の欠点を補うために、陶磁器製(土鍋)を鍋として使用した。土鍋は、蓄熱性が高く、熱容量が金属性に比べて大きいので炊飯時の昇温が穏やかであり、お米を美味しく炊き上げることができる。しかしながら、土鍋は金属製鍋と異なり誘導加熱ができないだけでなく、素材や焼成などの条件によって仕上がり寸法に大きくばらつきを生じる。そのため従来の金属製の鍋と同じフランジを吊り下げる構造では製品ごとにばらつきを生じるので安定した炊飯ができなかった。
(本発明の特徴)
非磁性体である土鍋の外側に誘導加熱に反応する発熱体(金属皮膜)を設けることで誘導加熱を可能にし、温度的・電気的に安定した誘導加熱の条件を得るために、土鍋の底面に加熱コイルと発熱体との距離を一定にする脚を形成したことが最大の特徴である。これにより土鍋で炊くご飯の美味しさを手軽に家庭で楽しむことが出来る炊飯器を市場に提供しユーザーから高い評価を得ている。また、金属性の鍋にはない蓄熱性の高さから炊飯時のピーク電力を10%抑えることができ、昨今の電力ピーク問題においても寄与している。お米を主食とする日本文化を今後グローバルに展開し、世界中に幸せな団らんを広めるとともに、日本の経済発展に貢献する技術である。
平成24年度大阪発明奨励賞(敬称略)
・「冷凍機伝導冷却型高温超電導マグネット」 (特許第4720960号)
加藤 武志 (住友電気工業株式会社)
冷凍機伝導冷却型高温超電導マグネットは、(a)通常の銅線を使ったマグネットでは発生困難な高磁場(2テスラ以上)を発生可能 (b)高価な液体ヘリウムが不要なため安価に運転可能 (c)冷媒を扱う高度な技術が不要 のため、誰でも簡単に運転可能な電気設備である。このため、磁場を利用した生産設備(単結晶引上げ装置、磁場炉、配向装置等)やレアアース永久磁石の評価用の磁場特性評価装置等へ利用可能である。このように高温超電導マグネットは利用価値が高いものの、運転方法を誤るとクエンチする危険性が残っていたため、運転方法の確立が非常に重要な課題であった。
本発明は、超電導コイルの許容発熱量の高度な設計手法およびコイル温度と通電電流をモニタ管理し、クエンチを防止する安定な運転手法を確立し、そのシステムを特許化したものである。従来は、超電導線材の臨界電流の50%程度でしか運転できなかったが、この発明によって臨界電流の90%以上の非常に高い運転電流で高温超電導マグネットを運転できるようになった。
また、先行技術である金属系超電導マグネットと比較して、運転温度の高温化による50%以上の省エネ、磁場の上げ下げの速度が10倍速くなることによる生産性アップ、クエンチしないことによる製品ロス低減、冷却時間の短時間化など多くのメリットを有するものに出来た。
・「鉄腕ハサミGT(PH−55)」 (特許第4964995号)
高崎 充弘 (株式会社エンジニア)
安藤 雅則 (株式会社エンジニア)
川合 真之介 (株式会社エンジニア)
この発明は、閉操作時における指詰をより確実に防止することができる、安全性に優れた鋏に関するものである。この発明を実際に新商品に適用する際、鋏の柄の間に指先が挟まれることを防ぐ指詰防止ガードなど、従来の鋏には無い各種機能を付与して多機能化・高機能化を図り、多くのユーザーの支持を受けるような斬新なデザインを付与することを目的として開発を進め、平成23年に「鉄腕ハサミGT(PH-55)」を完成させた。
鋏は、流通している数量が多く、それぞれの商品が持つ用途、デザイン、品質は千差万別である。株式会社エンジニアは、平成15年より鉄腕ハサミ(PH-50)を製造販売し、さらに、平成19年より一回り大きな外形形状を有する鉄腕ハサミザイロン(PH-51)を製造販売している。今回、「鉄腕」シリーズの新たなハサミとして、「最小で最強」とのキャッチフレーズを冠して、発明により実現された指詰め防止機能の効果を如何無く発揮するために、従来には無いハサミの使い方を提案している。ハサミの大きさは小さく持ち運びが容易である反面、切断時に手の力が伝わりにくいことが難点である。この短所を解決するため、グリップの外側を手で握る使い方を薦めている。通常のハサミを外側から握ると、力を入れて切断したときに、指を詰める恐れがあり、この危険性を解消したのが鉄腕ハサミGTである。これにより、力を入れて切断する際にハサミのグリップを外側から握っても切断時にグリップに指先などが挟まれることがなく、安心して強い力で握ることができる。また、従来の鋏には無い各種機能として、4つの刃すなわち「適度な厚みと鋭利な刃先を持つストレート刃」「多様な素材をザクザク切断できるギザ刃のマイクロセレーション」「ハリガネなどを本体の刃を使わずに切断するワイヤーカッター」「ダンボール箱の内容物を傷つけずに開梱できるダンボールオープナー」を付与して多機能化・高機能化を図っている。
・「磁石式紙挟みの台紙取り付け構造」 (特許第4323988号)
前橋 清 (ニチレイマグネット株式会社)
高濱 賢史 (ニチレイマグネット株式会社)
この発明は、包装体としての台紙や、各種イラスト等を表現した表示要素の高い台紙に対する、マグネットしおり等の磁石式紙挟みの取り付け構造に関するものである。
従来においては、小物商品を目視可能に所定位置に配置して包装する手段は、商品を覆うように収納する透明樹脂製の収納カバーと厚紙の台紙とで構成されたブリスター包装容器が多く使用され、台紙自体に凹部等を加工・形成して商品が収納できるようにしたり、台紙にゴム紐を取り付けてその間に商品を弾性保持する構造も用いられていた。
しかしながら、これらの構成は、真空成型等で製造された専用の透明収納カバーを使用したり、特殊加工した台紙や、取り付け用の部材を必要とするため、何れも商品と台紙とを単に収納袋に入れるような場合に比べ、製造コストが高くなるという不都合を有していた。
そのような背景の中で、包装する商品が磁石式紙挟みの場合には、従来の不都合を解消できることを究明したのが本発明である。
即ち、磁石式紙挟みは、表面部と裏面部とがヒンジ部を介して回動可能に連結していて、この表面部と裏面部との間にメモ用紙等を介在させて磁気吸着にて取り付ける機能を有しているおり、この特性を利用すれば、台紙の希望の位置に、台紙の外形抜き加工と同時に磁石式紙挟みが通る切り欠きを形成するだけという簡単な構成で、そこに通した磁石式紙挟みは、その表面部と裏面部を磁気吸着させることにより、台紙の所定位置に確実に固定されることになる。
後は、下図の(1)に示すように汎用の透明袋に収納すれば、マグネットしおりに代表される磁石式紙挟みの包装が完成するので、本発明は、簡単な構成で、磁石式紙挟みを台紙の所定位置に目視可能に取り付けることができ、製造コストを大幅に削減することができる。
又、台紙を各種に変形すれば、各種メッセージカード付きの販促品(2)(3)雑誌の折り込み景品(4)育児用の絵合わせの教材(5)等幅広い用途に展開できる利便性も有しています。