平成22年度大阪優秀発明大賞
受 賞 決 定
当事業は、昭和51年より大阪府において、優れた発明を完成し、わが国の科学技術の発展に大きな足跡を残した人々の偉大な功績を顕彰するため、毎年実施しております「大阪優秀発明大賞」の受賞者が過日決定されました。なお昨年度より中小企業の優秀な発明を奨励するために「大阪ものづくり発明大賞」が新設されています。
本年度は厳正なる審査の結果、大賞1件、発明賞3件、功績賞1件、大阪ものづくり発明大賞1件を決定し、平成23年1月27日(木)大阪大学中之島センターにて表彰式が挙行されました。
平成22年度大阪優秀発明大賞 (敬称略)
「静電霧化デバイス付き加熱送風機器」 (特許第4379473号)
今 堀 修 (パナソニック電工株式会社)
須 川 晃 秀 (パナソニック電工株式会社)
秋 定 昭 輔 (パナソニック電工株式会社)
三 原 史 生 (パナソニック電工株式会社)
吉 岡 浩 一 (パナソニック電工株式会社)
片 山 弘 典 (パナソニック電工株式会社)
山 内 俊 幸 (パナソニック電工株式会社)
須 田 洋 (パナソニック電工株式会社)
松 井 康 訓 (パナソニック電工株式会社)
<本発明の概要>
(背景と課題)
本発明は、ナノメーターサイズの帯電したミストを発生させる静電霧化器を備えた加熱送風装置に関するもので、ドライヤーやヘアースタイラーの理美容器具等に搭載される。従来の髪質改善を行うドライヤーとしては、マイナスイオンという粒径約1nmの帯電ミスト発生器を備えたものが広く使用されていたが、ヒータの熱等によってミストが蒸発しやすいため、髪質改善効果は非常に限定的であった。更に大きな効果を得る為にナノイーイオンと呼ぶ粒径約3〜100nmの帯電ミストを発生する静電霧化器を備えたドライヤーを考案したが、静電霧化に使用する水を補給する必要があり、使用者の手を煩わすとともに装置の大型化につながっていた。
(本発明の特徴)
上流側のファンから下流側のヒータへ向かう送風流路の途中で分岐する冷風流路を設け、この冷風流路に電極結露する静電霧化器を設けた。静電霧化器はその放電電極を冷却することで冷風流路中の水蒸気を放電電極表面へ結露させ、高電圧で静電霧化する構成とした。これにより水補給レスでナノイーイオンを迅速に発生する加熱送風装置が実現した。このナノイーイオンは体積が大きいため加熱により蒸発し難く、帯電した充分な量の水分やラジカル成分を髪に与えることができる。これにより髪の保湿効果や髪内部の繊維結合を高めて髪の強度を向上させ、髪にハリやコシを与える効果、本来の健康な髪の状態である弱酸性に近づけ、キューティクルを引き締め、髪内部の水分の蒸発を防いで、保湿効果の持続性を向上させたり、タンパク・アミノ酸などの栄養分の流出を防止したり、キューティクルが整うことによる髪のつやを向上させる効果などを、水補給する手間をかけずに使用者に提供することが可能となった。また水タンクも不要となり器具の小型化も実現した。その結果、本発明の技術はドライヤーやヘアースタイラー等の理美容器具に使われ、水補給せずに髪質を大きく改善できる器具として市場で支持を得た。
平成22年度大阪優秀発明賞(敬称略)
・「作業服「ムービンカット」」 (特許第3507416号)
村井 保雄 (株式会社クラボウインターナショナル)
舟木 勝法 (倉敷紡績株式会社)
一般的に作業服は、作業時の関節の動きに対して所謂ツッパリ感を着用者に与えるものが多い。このようなツッパリ感を解消するために種々の対策が従来からとられており、その一つとして、肩背面部にアクションプリーツと呼ばれるプリーツを設けたものがある。この様な作業服は、腕を前方に上げたときにプリーツが左右に広がって肩背面部の伸びを許容し、着用者のツッパリ感を緩和して活動性を高めているが、肘の曲げに対する機能は低く、腕を肩よりも高く前方に上げて作業するとき、依然ツッパリ感を覚えながら作業を行わなければならなかった。
本発明は、作業中の人体の動きに注目し、生地を立体裁断して縫製した作業服を提供するもので、作業者が腕を前方だけでなく上方に伸ばしたり、肘を曲げ伸ばしする作業の場合にもツッパリ感を覚えることの極めて少ない作業服を提供するものである。また併せて、作業服下衣についても同様に脚の付け根や膝などの曲げ伸ばしに対するツッパリ感を解消することができる。本発明は、アパレルメーカーに実施いただくものであり、そのための生地を当社が製造している。本発明は、素材メーカーである当社にとって生地の売上に大きく貢献するものである。
・「複合磁性材料」 (特許第4136936号)
島田 良幸 (住友電工焼結合金株式会社)
尾山 仁 (住友電気工業株式会社)
西岡 隆夫 (住友電気工業株式会社)
自動車のエンジンは高温となるため、エンジン近傍に配置されるエンジン制御部品には耐熱性が要求される。従来の複合磁性材料は、優れた磁気特性を有するものの、耐熱性が低いため、この用途に用いることができなかった。本発明の「複合磁性材」は、複合化する際に添加する樹脂の材種を検討することで、100℃以上の高温においても長期信頼性を有する部品を提供することが可能となった。本発明を用いた複合磁性材料は、省燃費、低CO2化技術として注目されている新世代ディーゼルエンジン用の電子式燃料噴射機構の電磁弁用部材として最適であり、2004年から実用化され、累積3300万個以上の出荷をしている。この複合磁性材料は、複合磁性粒子、磁性粒子同士を結着する有機物からなる。有機物の長期耐熱温度は200℃以上であり、複合磁性粒子に対する有機物の含有率は0質量%を超え0.2質量%以下である。複合磁性粒子は、鉄等の磁性金属材料からなる母材と、その表面に直接接合する金属酸化物を含む絶縁被膜の層から構成されている。上述の有機物は、ケトン基を有する熱可塑性樹脂、熱可塑性ポリエーテルニトリル樹脂、熱可塑性ポリアミドイミド樹脂等が選択される。製品の製造方法は、表面に潤滑材が塗布された金型内に混合粉末を充填して、100℃程度の金型温度で圧粉成形するする工程と、圧粉成形体を熱処理する工程とを備える。この製品は図3に示すように一般的な圧粉磁心材に比べて、高温下で優れた機械的特性を示すので、高温環境下で用いられる自動車エンジン用の電磁部材として最適である。本部品は、焼結製品固有の特性として、少ない加工量により、材料の無駄、エネルギー消費を抑えられる、省エネ・エコ製品である。また、本部品を用いることにより、低燃費とエンジン排気ガスのクリーン化が達成でき、今後さらなる普及が期待される。
・「廃プラスチック高純度静電分離技術」 (特許第3746412号)
井上 鉄也 (日立造船株式会社)
大工 博之 (日立造船株式会社)
前畑 英彦 (日立造船株式会社)
塚原 正徳 (日立造船株式会社)
玉越 大介 (住友金属テクノロジー株式会社)
廃プラスチックの分離技術には比重差分離技術などがあるが、家電や自動車等で使用されているプラスチックは多品種で、かつ比重的に近いものも多いため、従来の分離技術では分離精度に限界があった。これに対し、プラスチックの種別分離には帯電特性の差異を利用した静電分離法が有効であるが、従来はプラスチック片を大面積の平板電極間に自由落下させていたため、分離精度や連続大量処理能力に限界があり、装置も大型化してしまう等の問題があった。
本発明は、廃プラスチックの定量供給部、摩擦帯電部、ドラム式回転電極および回収部から構成される。摩擦帯電部はプラスチックにその種類固有の帯電列を考慮した帯電特性を与える構造とし、バッチ方式で複数基設けることで大量処理を可能とした。ドラム式回転電極では、帯電プラスチックに静電力と遠心力を与えることで、格段に精度の良い選別が可能となった。また、静電力と遠心力の作用によるプラスチックの飛行/落下位置を制御した分離方式のため、電極間を短くでき、平行平板電極方式よりも低印加電圧でコンパクトな装置となった。更に、定量供給系装置、摩擦帯電装置、ドラム式回転電極の各連結部にバッファタンクおよび供給フィーダーを設けることで、高精度で効率のよい、定量かつ連続的な廃プラスチックの種別分離が可能となった。
平成22年度大阪優秀発明功績賞(敬称略)
長 榮 周 作 (パナソニック電工株式会社 代表取締役社長)
平成22年度大阪ものづくり発明大賞 (敬称略)
「頭が潰れたり錆びた小ネジをつかんで外せる工具」 (特許第3486776号)
高 崎 充 弘 (株式会社エンジニア)
(背景と課題)
本発明は、頭が潰れたり、錆びたりして、ねじ回し(ドライバー)では回せなくなった小ネジを、簡単につかんで外す道具に関するものである。ペンチやプライヤーで小ネジの頭をつまんで外そうとしても滑ったり、空づかみとなり、回すことができない。しばしば経験するネジのトラブルであるが、これを解決するための工具がなかった。
(本発明の特徴)
通常のペンチやプライヤーの先端には横方向の溝加工が施されている。本発明はこの溝を90度回転させた縦方向とし、同時に先端を閉じた状態で縦溝が後方に行くに従って離れてゆく形状としている。これにより、ネジ頭外周を挟んだ際のプライヤーの挟み面が概ね平行になる。そして、小ネジの最外周を尖鋭な縦溝が噛み込むので、ネジ回転方向への滑りが無く、摩擦回転力が確実に伝わり、極めて容易に頭が潰れたネジを外すことができる。
(技術内容の紹介)
本発明は、頭が潰れたり、錆びたネジを簡単につかんで外す道具に関するものである。
ドライバー(ネジ回し)で外せなくなったネジに対して従来は、ネジ頭にヤスリをかけてマイナス溝を作ったり、貫通ドライバーとハンマーを用いて新たな溝を作るなどの方法も試みられてきたが、多大な時間と労力を要する作業であった。また、場所によってはヤスリをかけるスペースが無かったり、機器によってはハンマー等での衝撃を与えることが許されない場合も多い。また、通常のペンチやプライヤーでネジの頭をつまんで外そうとしても滑ったり、空づかみとなり、回転に必要な充分な保持力を得ることができない。
電気製品や家具などの場合、ネジを外して分解できるのであれば再利用やリサイクル可能であるが、ネジが外せない場合は廃却処分にしなければならない。またオートバイや自動車の修理、機械のメンテナンスにおいても、ネジの頭が潰れたり、錆びたりした場合の修復作業には多大な時間とエネルギーを費やしていた。
プライヤーの先端部に特殊な溝加工を施すだけで、極めて容易に頭が潰れたネジを外すことができる本発明は、保守メンテナンスの作業性向上に顕著な効果を発揮するとともに、リサイクル、リユースを推進しやすくするという点で環境問題にも貢献する事ができる。
本発明は、一般的なプライヤー先端に設けられている「横溝」を90度回転させて「縦溝」としただけでなく、その「縦溝」に後方にゆくに従って離れてゆく傾斜角を持たせたことを最大の特徴としている。
単に90度回転させた「縦溝」を設けただけであれば、ネジの頭を掴む際に先端の溝部が「ハ」の字型に開いてしまう。その為、ネジ外周の半径の小さい個所で溝とネジ頭が接触してしまう。そして次の2つの理由によって大きな回転操作力をネジに与えることができない。まず、「ハ」の字型に接触しているので挟持力がネジ頭の斜め横方向から加わる。この為、挟持力の前後方向の分力が発生し、プライヤー全体が後方に動き、ネジ頭から「するっと」外れやすくなる。即ち、ネジの「保持力」が弱い。2番目に、ネジ外周の半径の小さい個所で接触しているので、ネジの中心から作用点までの距離が短く「回転トルク」が小さい。このように、単に縦溝にしただけでは、「保持力」と「回転力」がともに不十分であり、頭が潰れたり錆びたネジを外す為の、大きな回転操作力が得られない。
本発明のプライヤーでは、縦溝に、後方にゆくに従って離れてゆく「傾斜角」を持たせている。これによって、ネジ頭を掴んだ際に、先端の溝部が「ハ」の字型に開かず、概ね平行「↓↓」になる。従って、挟持力がネジ頭の真横から加わり、前後方向の分力が発生せず、ネジ頭を確実に保持することができる。同時に、ネジの最外周で接触するので、ネジの中心から作用点までの距離が最も長く、大きな回転トルクが発生する。これによって、頭が潰れたり錆びたネジを外す為の、大きな「保持力」と「回転力」を得る事ができるというのが本発明である。
今日、ネジはあらゆる所で大量に使用されている。本発明を採用した工具が広く普及する事で、産業分野だけでなく一般家庭における省資源、省エネルギー、環境問題にも大いに貢献できるのではないかと考える。