平成20年度大阪優秀発明大賞
受 賞 決 定
当事業は、昭和51年より大阪府において、優れた発明を完成し、わが国の科学技術の発展に大きな足跡を残した人々の偉大な功績を顕彰するため、毎年実施しております「大阪優秀発明大賞」の受賞者が過日決定されました。
本年度の応募件数は13件で、厳正なる審査の結果、大賞1件、発明賞5件、功績賞1件を決定し、平成21年1月23日(金)ホテルグランヴィア大阪にて表彰式が挙行されました。
平成20年度大阪優秀発明大賞 (発明者敬称略)
「圧電薄膜材料技術」 (特許第3481235号)
鳥 井 秀 雄 (パナソニック株式会社)
藤 井 映 志 (パナソニック株式会社)
高 山 良 一 (パナソニック株式会社)
友 澤 淳 (パナソニック株式会社)
村 田 晶 子 (パナソニック株式会社)
平 澤 拓 (パナソニック株式会社)
<本発明の概要>
(背景と課題)
本発明は、電気と機械の両エネルギーを相互変換できる薄膜型圧電素子とその応用デバイスに関するもので、角速度センサ(ジャイロセンサ)やアクチュエータに使われる。従来の角速度センサは、圧電セラミックスや水晶単結晶を微細加工して作られ、小型化に限界があった。更なる小型化に向け薄膜型素子が要望され、高圧電特性実現のために、圧電容易軸方向に結晶配向した圧電薄膜材料が不可欠であった。代表的な製法として、先ず基板上の電極層表面に極薄Ti層を形成し、その上に圧電材料組成元素の金属有機化合物溶液の塗布・仮焼成の繰り返しで非晶質前駆体膜を形成し、次に高温焼成し結晶化して配向圧電膜を作る方法が考案された。しかし、Ti層の厚みばらつきに因って圧電膜の配向性にばらつきが生じたり、合成された圧電膜中にクラックが発生し易いという課題があった。
(本発明の特徴)
本発明の圧電素子は、安価で加工性に優れたSi基板上に貴金属合金の下地電極膜と結晶配向制御膜と高特性PZT圧電膜と上部電極膜が積層された構成の薄膜型素子である。本発明は、圧電膜形成の下地電極に、少量のTiと貴金属からなる合金膜を用いることと、基板加熱型スパッタ法で全薄膜層を直接形成し、従来の圧電薄膜の製法に不可欠であった高温焼成の後処理工程を不要にしたことが特徴である。すなわち、@Ti・貴金属の合金膜を用いることで、下地電極表面に点在するTi原子がわずかに酸化され、4つの酸素で正四角形にTiが囲まれた正四角形構造体が膜表面に作られる(この構造体は、PZT圧電薄膜の分極軸(膜成長方向)に垂直な結晶面内の酸素・Ti配置と同じ配置)。Aこの正四角形構造体を成長核にして、先ずPZT膜と結晶構造が極似で、スパッタ法で合成し易い結晶配向制御膜を作り、それを下地にPZT膜を形成するので、分極軸方向に結晶配向したPZT膜が再現よく作れる(図1)。その結果、本発明は、デジタルカメラの手ぶれ防止センサなど、幅広い分野で使える超小型圧電MEMS素子を高歩留りに製造できる技術として期待できる。
平成20年度大阪優秀発明賞(発明者敬称略)
・「固体電解質形燃料電池セパレータ用ステンレス材料とこれを適用した燃料電池」 (特許第4078966号)
樽谷 芳男 (住友金属工業株式会社)
関 彰 (住友金属工業株式会社)
土井 教史 (住友金属工業株式会社)
ステンレス鋼は、その表面に不動態皮膜が形成されるために耐食性が優れている。しかしながら、不動態皮膜は電気抵抗が高いために、ステンレス鋼は、小さな接触電気抵抗であることを要求される通電用電機部品には適していない。ステンレス鋼表面の接触電気抵抗を下げることができれば、ステンレス鋼を耐食性が要求される通電用電気部品として使用することが可能になる。
本発明は、ステンレス鋼表面に存在する不動態皮膜はそのままに、鋼中に多数、分散析出する導電性金属析出物M23C6、M4C、M2C、MC型炭化物およびM2B型瑚化物系金属介在物のうちの1種以上を、不動態皮膜を貫通させて露出させることでステンレス鋼表面の接触抵抗を低減している。すなわち、耐食性に優れる導電性金属析出物を「不動態皮膜を迂回する”電気の通り道(導電パス)”」として活用する。高価な金めっき処理なしで、無垢のままで固体高分子形燃料電池のセパレータ用材料として適用が可能である。
燃料電池自動車適用と複数の家電メーカでの適用検討が進行中であり、近々普及が始まろうとしている固体高分子型燃料電池の今後の発展に大きく貢献できる見通しである。
・「血中ヒトカルシトニンの高精度測定法」 (特許第4037933号)
山下 信彦 (大阪ガス株式会社)
中本 学 (大阪ガスケミカル株式会社)
片岡 千和 (合同会社カーバンクル・バイオサイエンテック)
坂木 純子 (元 株式会社関西新技術研究所)
カルシトニンは甲状腺癌や一部の癌で血中濃度が増加することから、癌マーカーとして有用であり、既に血中ヒトカルシトニン(hCT)測定用のラジオイムノアッセイ(RIA)法が開発されている。しかし、市販のRIAキットは、抗hCTポリクローナル抗体を用いたもので特異性および感度が低く(30pg/ml程度)、生理活性のない分解物も認識してしまうため、正確な血中hCTの精密測定には向いていない。
従来、ELISA法に用いる抗体は、固定化したカルシトニンに対する親和性が高いものを単純に選別して用いていたが、この方法では、実際にELISAに組み込んだときに十分な感度が得られなかった。本発明では、調製した多数の抗hCTモノクローナル抗体について、固定化抗体と2次抗体として組み合わせたときの特異性と感度を、可能な全てのの組み合わせで網羅的に評価した。その結果、ELISA法として用いたときに、非常に高い特異性と感度を発揮するモノクローナル抗体の組み合わせがあることを発見するに至ったものである。本発明により、0.6pg/mlの血中hCTを測定できる高精度サンドイッチELISA法の構築が可能となった。本発明のモノクローナル抗体の組み合わせを利用することにより、低レベルの血中hCTの分析が可能となり、骨粗鬆法をはじめとする種々の体外診断薬の開発に大きく貢献すると期待される。
・「微細空洞含有ポリエステルフィルム」 (特許第2611752号)
佐々木 靖 (東洋紡績株式会社)
伊藤 勝也 (東洋紡績株式会社)
森 憲一 (東洋紡績株式会社)
鈴木 利武 (東洋紡績株式会社)
微細空洞を含有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムは、PETとPETに非相溶な樹脂を混練・押し出して得られた未延伸シートを二軸延伸して空洞を発生させることにより得られる。従来の製造方法では通常、縦方向に延伸した後に横方向に延伸されていたが、縦方向に高い倍率で延伸すると横方向に延伸する際に破断しやすいため、縦方向の延伸を低くして横方向に延伸倍率を大きくすることで製造されていた。
本発明は、見かけ比重が0.6〜1.3と低く十分な空洞を含みながら、面内複屈折(縦方向主軸屈折率−横方向主軸屈折率)が−0.02〜+0.04とフィルムの縦および横方向の配向差が低く抑えられた空洞含有ポリエステルフィルムである。
本発明者らは縦、横方向の延伸時の分子配向の状態に注目し、高倍率の縦方向の延伸後であっても延伸の条件を適正化することにより横方向の延伸における破断も少なく、安定した生産が可能であることを見出し、等方性に優れさらには厚み班や物性も均一な微細空洞含有ポリエステルフィルムを得ることができるようになった。
その結果、本発明の微細空洞含有ポリエステルフィルムは様々で広範囲な要求に応えられるものとなり、単なる紙の代替にとどまらず、機能性フィルム、電気・電子用途などに適応可能なものとなった。
・「放電衝撃破砕工法」 (特許第3100532号)
荒井 浩成 (日立造船株式会社)
前畑 英彦 (日立造船株式会社)
塚原 正徳 (日立造船株式会社)
大工 博之 (日立造船株式会社)
井上 鉄也 (日立造船株式会社)
従来のコンクリート・岩盤等の破砕は火薬類を使用するため、騒音・振動・粉塵等が発生し、環境への負荷や安全面などで問題を抱えている。住宅地、都市部などでは破砕・発破作業が規制されるケースもある。このような問題を回避するには、火薬類を用いない破砕工法が望まれる。
本発明は、放電衝撃破砕装置の要である電源・スイッチング技術に関するものである。すなわち、
@充電スイッチとコンデンサの間に昇圧用変圧器および整流回路を設けることで、低圧の交流電源の使用を可能とした。これにより、高圧直流電源に比べて格段に安全性が向上し、低価格化が可能となった。
A充電回路に、タイマースイッチ、あるいは、遮断用リレースイッチを設ける構成とし、自動的に充電が停止されるとともに、放電後の再充電も防止可能とした。これにより、操作の確実性が増し、かつ安全性も飛躍的に向上した。
B放電回路を、充電用タイマースイッチとサイリスタを用いた放電スイッチを組み合わせる構成とした。これにより、充電・放電作業が自動化され、より作業効率が向上した。
本発明により、小規模エネルギーの利用に止まっていた放電衝撃破砕法は、火薬爆発に匹敵する大規模エネルギー発生法にまで発展し、さらに「安価」で「操作性」「安全性」「省エネ性」「低環境負荷性」に優れた実用規模の工法となった。現在、商用工法として多数の工事実績をあげている。
・「カフレス技術」 (特許第3121695号)
永吉 清治 (エバック株式会社)
近年、原油価格が高騰しており、プラスチック製品市場でもコストアップが多く、環境負荷を減らすという要求が高まってきていた。包装資材、建材、家電製品、一般雑貨品等々プラスチックを使用する分野で、日々このような問題解決に取り組んでいる。フレキシブルホースも例外ではない。また部品として使用されるフレキシブルホースは、そのほとんどがホース単体での使用ではなく、接続部品をホース管端に接着加工して各機器と接続されている。接続部品をホース管部に接着加工するということは、部品手配、接着加工手間、ホースと部品接着部分からの水漏れ心配等の懸念がある。
本発明は、ホースと部品を自動的に一体成型したした排水ホースである。一体成型にすることによる目的は、部品の接着問題を解決し、部品を事前に製造する射出成型の手間、部品をなくすことによる環境面の配慮、接着加工の手間を一挙に省き、コストアップを抑えた。また、ホース両端を拡管にすることも可能であり、部品接着なしで市販の塩ビパイプを直接差し込むことができる。これは部品を削減することができ、施工者の手間・社内加工手間を省くことができる。
従来、押出し成型で作られるホース成型技術では、長さ方向に対して同じ形状が連続するということが特長であり、基本となっていた。本発明は、連続成型中において定期的に形状の異なる部分を一体成型するという過去にない画期的な成型技術である。
環境面では、ホースと部品を接着する必要がなくなるため、接着剤を使用する必要もなくなった。接着剤には有機溶剤が含まれているため、接着剤を使用しないことにより、使用時の環境及び、作業者への体調面での配慮がなされている。
また、樹脂成型部品自体も必要なくなるので、部品の金型鋼材、成型に必要な電気代、原材料である原油の削減が可能になり、環境に配慮したエコ商材となっている。
平成20年度大阪優秀発明功績賞
大 坪 文 雄 (パナソニック株式会社 代表取締役社長)