平成18年度大阪優秀発明大賞


受 賞 決 定


 当事業は、昭和51年より大阪府において、優れた発明を完成し、わが国の科学技術の発展に大きな足跡を残した人々の偉大な功績を顕彰するため、毎年実施しております「大阪優秀発明大賞」の受賞者が過日決定されました。
 本年度の応募件数は9件で、厳正なる審査の結果、大賞1件、発明賞3件、功績賞1件を決定し、平成19年1月15日(月)ホテルグランヴィア大阪にて表彰式が挙行されました。
 

   


平成18年度大阪優秀発明大賞

 
 「コンバイン等の強制デフ式操舵システム」 (特許第3174950号)
    日 高 茂 實 (ヤンマー農機株式会社)

<本発明の概要>

(背景と課題)

本発明は、コンバイン等履帯車両の操舵システムに関するものである。コンバイン等履帯車両の旋回方式には、クラッチ&ブレーキ方式が採用されてきたが、この方式では、湿田等の地盤の悪いところでは、走破性能が著しく落ち、かつ旋回時にはギクシャクした不快なフィーリングであった。一方、強制デフ式の旋回方式は、走破性能がよく、かつ旋回時のフィーリングも非常に良いものである。しかし、この方式を実機に採用するには、一般のオペレータに、使いやすくするための操作系技術が必要であった。また、この技術が必要であるがゆえに、民間用の車両には広く採用されることはなかった。

(本発明の特徴)

強制デフ式トランスミッションは、直進用HSTと旋回用HSTの出力を左右に配置された遊星ギヤで足し合わせて、履帯の回転数を作り上げるものである。そこで、この発明の操舵システムは、操向ハンドルの旋回操作により直進用HST(無段変速機構)を減速動作させながら、旋回用HST(操向用油圧モータ)を増速操作させて、操向操作により走行速度を減速させながら方向転換させることを特徴としている。
 この発明により、旋回時に確実にスピンターンが可能となるため、自動車感覚の操作フィーリングを保ちながら、小回り性能も優れる履帯車両を完成できた。
 また、発明の実施にあたっては、変速レバーと操向ハンドルの双方の出力を一旦「円錐リンク」の中に入力し、その内部でメカニカルに演算した後に、直進用HST・旋回用HSTの操作レバーへと出力する操作系を有している。
 この円錐リンク機構で、4輪の自動車と同様のハンドル操作感覚(@ハンドルの切り角に応じて旋回半径が変わる。A前進・後進で旋回方向が同じ。Bハンドルの切り角が一定ならば旋回半径は一定である。)を実現することができる。


        



平成18年度大阪優秀発明賞

 
「鉄道車両用差圧弁装置」 (特許第3478158号)
    佐藤 與志  (住友金属工業株式会社)

 本発明の応荷重差圧弁では、空気ばね内圧比例作動特性を得ることで、全荷重領域での走行安全性の向上を図るため、異径ダイヤフラム組合せ構造を同軸上に配置して、異径ダイヤフラムのそれぞれのダイヤフラムに作用する内圧に比例した力を同軸上で比較することで、弁作用圧が空気ばね内圧値に比例する構造を考案し、構造が比較的簡単で摩擦の影響を受けず、安定した性能が得られた結果、本発明の応荷重差圧弁を適用した鉄道車両は、曲線通過時の走行安全性(輪重抜け割合)を全荷重領域で向上し、鉄道の安全性向上に寄与できた。
 本発明の鉄道車両用差圧弁装置は、作動圧が乗車率(空気ばね内圧)に比例して上昇する応荷重差圧弁としては、我が国で初めて実用化されたものであり、東京地下鉄株式会社を初めとした国内主要鉄道会社の通勤電車において採用されており、首都圏等の通勤輸送の安全性向上に貢献できた。


 「太陽電池用多結晶シリコン薄膜の製法」 (特許第3364137号)
    吉見 雅士  (株式会社カネカ)
    山本 憲治  (株式会社カネカ


 従来の技術では、プラズマCVD法によって低温で良質の結晶質シリコン系薄膜を得るためには、温度、反応室内圧力、高周波パワー、ならびにガス流量比というような種々の成膜条件パラメータを検討しても、その製膜速度はアモルファスシリコン膜の場合と同程度(10nm/分程度)か、それ以下にしかならなかった。そのため、この結晶質シリコン薄膜光電変換層を形成する時間が数10時間に及ぶ場合があり、実用化のための大きな課題となっていた。
 本発明の技術では、その結晶質シリコン薄膜光電変換層をプラズマCVD法で堆積する条件としてプラズマ反応室内に導入されるガスの主要成分としてシラン系ガスと水素ガスを含み、かつシラン系ガスに対する水素ガスの流量が50倍以上であり、プラズマ反応室内の圧力が3Torr以上に設定され厚さ方向に16nm/分以上の速度で0.5〜20μmの範囲内の膜厚まで堆積し、これによって、前記光電変換層は多結晶シリコン膜または体積結晶化分率80%以上の微結晶シリコン膜であってかつ0.5原子%以上で30原子%以下の水素を含有するものとして形成されることを特徴としている。
 この技術は、従来技術と比べて製膜速度を大幅に向上させることができ、しかもよりよい膜質が得られる(太陽電池の高性能化が図れる)。当社はこの技術を利用して世界で初めて結晶質シリコン系薄膜光電変換層を含むタンデム太陽電池(シリコンハイブリッド太陽電池)の実用化に成功した。またこの高圧製膜技術は、現在世界中の研究機関で幅広く用いられている。


  「連続鋳造鋳片表面割れの防止技術」 (特許第3008825号)
    加藤   徹  (住友金属工業株式会社)
    山中 章裕  (住友金属工業株式会社


 厚板低合金鋼の連続鋳造時には鋳片を曲げ、矯正する歪みにより横ひび割れと呼ばれる表面割れが発生することがある。この割れは鋳片表層部の結晶粒界に沿って生成するフィルム状フェライトが起点となり、A3変態温度近傍の高温脆化に起因することが知られている。本発明では連続鋳造の鋳型直下で一旦急冷却し、その後復熱する温度履歴とすることにより、割れの発生する鋳片表層部においてフィルム状フェライトの生成を防止できることを見いだした。その結果、鋳片の割れ感受性が低下し表面割れを防止することが可能になった。表面割れ感受性の極めて高い厚板用低合金鋼を対象に、このように積極的なミクロ組織制御により、連続鋳造機の機内という制約の多い条件の下で割れの防止を実現した。
 本発明の方法を、表面割れ感受性が高く、従来表面の検査及び手入れが必須であった鋼種の生産に適用した結果、鋳片の表面割れを防止し、直送圧延可能鋼種の拡大に寄与した。その結果、当該鋼種において圧延前に一旦室温まで冷却して実施する鋳片の表面手入れ工程を省略することが可能となり、鋳片を熱塊のまま圧延工程に直送する直送圧延を実現し、鋳片の検査及び手入れコストのみでなく、鋳片再加熱のためのエネルギーも削減できた。



平成18年度大阪優秀発明功績賞

    日 沖   勲 (ヤンマー農機株式会社 代表取締役社長)